「相続放棄」という言葉がある。読んで字のごとく「相続を放棄する」ことである。
故人の債務が大きい場合、その債務を相続してしまわないように、相続する権利を放棄するという手続きである。
この「相続放棄」の手続きであるが、多くの方々が少し内容を取り違えている場合が多く見受けられる。相続放棄は「自分が放棄して終わり」のシステムではない。
さて、通常「相続」には順番があるのはご存知であろう。特に遺言がなければ、配偶者→子→父母→祖父母→兄弟姉妹→従兄弟→甥姪と相続の権利は移って行く。
「相続放棄」は前述のとおり「相続する権利を放棄する」手続きであるので、あなたがもし、被相続人(故人)の配偶者であるならば、
あなたが相続を放棄すれば被相続人の子(多くの場合はあなたの子)が相続をすることになる。
これは、相続するものがプラスだろうとマイナスだろうと関係なく、放棄した次の順番の人に「受け取りもしくは支払い義務」が移るのである。
次のような例を考えてほしい。Aさんは借金を残して亡くなった。奥さんと子供は家族で話し合いの結果、相続を放棄することを決定し手続きをした。
現代の一般的な核家族であれば、これで借金は無くなったと勘違いしがちである。
しかし、Aさんの両親も祖父母も既に他界していたとすると、その借金は自動的にAさんの兄弟姉妹に移る。
3ヶ月間、何も手続きを取らなければ、Aさんの借金は「奥さんと子供が相続放棄したことが原因で」兄弟姉妹のものになってしまうのである。
Aさんの家族は、円満に放棄したつもりであっても、Aさんの兄弟姉妹にしてみれば、たまったものではない。
奥さんである義理の妹(もしくは姉)に不満を抱いてもなんらおかしくない。
こうなってしまうと、関係はあまり良い状態ではなくなってしまう。
現在のように、家族のつながりも希薄になることのある世の中では、十分に考えられる例である。
兄弟の一人が、海外で生活することが多い人だったりすると連絡もつかないまま、背負わせるつもりではなかった借金を背負わせてしまうことも考えられる。
高齢化が進んでいる、今の世の中の現状から考えると、もし、あなたに相続をする機会が生まれ相続放棄をしようと考えているのであれば、
周りの身近な家族とともに、専門家に相談の上、日ごろ疎遠な家族にも確認を取りつつ、手続きを進めることをお勧めする。
周りを確認せずに自分のところでだけ「相続放棄」をしてしまうと、思わぬ人に思わぬ手間や債務が発生した上に、
あなた自身の人間性を疑われるような事態になる可能性も十分に考えられるので、気をつけていただきたい。